こんにちは。四谷学院通信講座、ブログ担当のnecoです。
発達に偏りや凸凹を持つけれども発達障害の診断を受けるほどではない、そんな子供たちのことを「グレーゾーン」と呼ぶことが一般的になってきています。
グレーゾーンの子供たちは、小学校では普通級に在籍することが多く、定型発達の人にとっては思いがけないようなところでつまずくことがあります。
この記事では、そんなグレーゾーンの子供たちが小学校で直面しがちな課題を取り上げ、誰でもちょっとした工夫でできる「課題の乗り越え方」をご提案していきます。
今回は、集団生活がうまくいかない児童への支援についてです。
集団生活がうまくいかないとはどういうことか
「集団生活がうまくいかない」とは、55レッスンでもよく伺うご相談内容の一つです。
何がどううまくいかないのか、具体的な事例は人それぞれですが、共通することは「行動」がうまくいかないという点です。
集団生活は「行動」の連続です。
先生の話を聞く、その間は勝手に立ち歩かずにじっと座っている、遊びの時間から学習の時間に切り替える、大人の指示通りに活動する、グループで相談し合って活動する、などなど、集団生活の全体は子供たちの「行動」で成り立っています。
もちろん行動面以外にも、子供の成長・発達上の課題は多数あるわけですが、「集団生活がうまくいかない」という形で表面化する課題は、「その子の行動がうまくいかない」という出来事がベースになっています。
集団生活がうまくいかない子の行動は、多くの場合「期待される行動をとれない」あるいは「不適切な行動をとる」、という表現で整理できます。
・掃除や給食などの係活動をしない
・指示とは別のことをする(粘土工作の時間に自分だけ絵を描いている等)
・行動の切り替えがうまくいかない(他の児童は先生の話を聞いているのに自分だけ遊びを続けている等)
・嫌なことがあると大声を出す、パニックになる
・時間や提出物の締め切りを守れない
など
グレーゾーンの子供たちが「期待される行動をとれない」または「不適切な行動をとる」時は、以下の3つのポイントのどこかでつまずいていることが多いです。
2.やり方がわからない(スキル・知識がない)
3.やる気がない
この3つのうちのどこでつまずいているかによって、その子にとって本当に役に立つ働きかけの方向性は、全く変わってきます。
一つひとつ見ていきましょう。
何をするかわからない
何をするかわからなければ、求められる行動をとれるはずがありませんね。
たとえばよくあるのが、クラス全員で使った絵具の道具をみんなで一斉に片づけるような場面で、何もせずにふらふらしているようなシチュエーションです。
パッと見ると、一人だけ作業をさぼっているように思われるかもしれない状況です。
このような時、「この筆を手洗い場で洗って、このタオルで拭いて、この箱に入れてね」と具体的に指示を出すと、たちまちイキイキと活動を始める子がいます。
この場合、この子は、何をするかわからなかったために行動できなかったのかもしれないと想像することができます。
また、「きちんと」「丁寧に」といった曖昧な指示も、グレーゾーンの子供たちにとっては混乱のもとです。
絵具皿を適当に拭うだけで、まだまだ汚れが残っているのに「いい加減に」作業を終わらせてしまう子がいた場合、何が「きちんと」なのか、どうすれば「丁寧に」なのかがわかっていない可能性があります。
この場合も、
・水を流しながら筆で皿全体を10回こする
・汚れた水が出なくなるまで流す
など、具体的にどう行動すればよいかを伝えてあげると良いでしょう。
やり方がわからない(スキル・知識がない)
やり方がわからなかったり、その作業を遂行するために必要なスキルが身についていなかったりする時にも、もちろん、求められる行動をとれるはずがありません。
たとえば絵具で汚れないように床に敷いた新聞紙を、畳んで片づけるとします。
きちんと四隅を合わせて畳む子の隣で、その新聞紙をぐちゃぐちゃに丸めて放り投げている子がいたら、どうしてもふざけているように見えますね。
「ふざけないでちゃんとやって!」などと、注意したくなる場面です。
ところが、実はその子が、新聞紙を畳むスキルを持っていなかったとしたらどうでしょうか。
両手を思い通りに動かすことが苦手である、繊細な力加減が苦手である、指先の細かい動きが苦手である、といった理由で、手先を思い通りに動かすことに難しさを感じる子もいます。
新聞紙を畳む難しさにストレスを感じて、それを発散させるために新聞紙に力をぶつけているのかもしれません。
もしそうだとしたら、「ちゃんとやって」と叱ることには全く意味がありません。
新聞紙をどう畳むかを丁寧に指導する、一緒に練習する、(必要があれば)手先の運動機能の発達を促す取り組みを行う、といったサポートが必要です。
上達するまでは、他の子が畳んだ新聞紙を保管場所まで運ぶ作業をお願いするなど、本人にとって無理のない作業で、集団生活に積極的に参加できるよう働きかけてあげるとよいでしょう。
やる気がない
行動をとるためには、行動の主体となる人の「意志」が必要です。
集団生活においても、その行動をしようとする意志=やる気がなければ、求められる行動をとることはできません。
自分にとって興味のあることだけに集中し、それ以外のことには一切関心を抱かないタイプの子に多くありがちな状況です。
こういった子にとっては、絵具を使った活動そのものは面白い(=やる気がある)から取り組むけれど、片付けは面白くない(=やる気がない)から参加しない、という理屈につながります。
もちろん、これでは集団生活が成立しないので、なんとか活動に参加してもらいたいわけですが、
「ふざけていないでちゃんとやりなさい」
「みんなきちんとやっているのになぜあなただけやらないのか」
といった、従来ありがちな指導では、このタイプの子の「やる気」を刺激することはできません。
・取り組みをゲーム形式にする
・取り組みに対してポイントを与える(表に〇をつける・シールを貼る等)
(一定数のポイントが貯まったら何らかのご褒美につながるとなお楽しい)
など、子供たちが楽しくて思わずやりたくなるような活動内容を工夫すると良いでしょう。
また、その子が頑張っている取り組みを日頃から大人がこまめに褒めて承認することも、やる気を引き出すためには大切な働きかけです。
集団生活がうまくいかない児童についてまとめ
集団生活がうまくいかない=期待される行動をとれない、または、不適切な行動をとる
という点に着目して、指導についての視点の置き方や対応の工夫をご紹介しました。
3つの要因に分けてご紹介しましたが、実際には3つのうちのどれかひとつだけが当てはまる場合は少なく、複数の要因が絡み合って複雑な状況を形作っている場合がほとんどです。
指導者は、どんな要因があり得るかを頭に置いた上で、その子の状況をよく見つめ、一つひとつの行動の背景にどんな事情が隠れているかを想像しようとすることが大切です。
集団生活で行動がうまくいかない児童は、ややもすると、ふざけている、不真面目である、といった不当な評価を受けがちです。
実際にふざけている児童もゼロではないのですが、「今は」ふざけている子も、話をよく聞いてみると、「最初は頑張ってやろうとしていた」経験を持つことが少なくありません。
そのような児童は、頑張ってやろうとしたけれどもできなかった、やり方がうまくいかなかったために逆に(不真面目だと思われて)叱責された、といった体験が積み重なった結果、取り組むことを諦め、ふざけることでその場の時間をつぶしています。
本人にとっても、他の子供たちや指導者にとっても、とても残念な状況ですね。
このような場合こそ、指導者の思慮深く温かなまなざしが何よりも求められる場面です。
その子の課題にとって効果的な支援を工夫できれば、集団を構成する全てのメンバーに、より良い循環が生まれることでしょう。
あなたの働きかけの引き出しの一つとして、記事がご参考になれば幸いです。
こちらは、自閉症・発達障害の療育 四谷学院55レッスンのブログです。
55レッスンは、自閉症・発達障害のお子さんがご家庭で親御さんとご一緒に学べる療育の通信講座です。
我が子にとってより良い働きかけを工夫したい、もっと気軽に誰かに相談したい・・・
そんな思いをお持ちの保護者様は、ぜひ一度、資料をご覧になってみてください。
このブログは、四谷学院「発達支援チーム」が書いています。
10年以上にわたり、発達障害のある子どもたちとご家庭を支援。さらに、支援者・理解者を増やしていくべく、発達障害児支援士・ライフスキルトレーナー資格など、人材育成にも尽力しています。
支援してきたご家庭は6,500以上。 発達障害児支援士は2,000人を超えました。ご家庭から支援施設まで、また初学者からベテランまで幅広く、支援に関わる方々のための教材作成や指導ノウハウをお伝えしています。
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