細かいものを見る学習課題が苦手な子への支援例

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こんにちは。四谷学院通信講座、ブログ担当のnecoです。

発達に偏りや凸凹を持つけれども発達障害の診断を受けるほどではない、そんな子供たちのことを「グレーゾーン」と呼ぶことが一般的になってきています。
グレーゾーンの子供たちは、小学校では普通級に在籍することが多く、定型発達の人にとっては思いがけないようなところでつまずくことがあります。

この記事では、そんなグレーゾーンの子供たちが小学校で直面しがちな課題を取り上げ、誰でもちょっとした工夫でできる「課題の乗り越え方」をご提案していきます。

今回は、「細かいものを見る」学習についてです。

細かいものを見る課題

細かいものを見る作業に苦手意識を持つ子は驚くほど多くいます。
定型発達の児童でも、パッと見て文字が細かい、情報量が多い、問題がたくさん書いてある、といった教材に、咄嗟に拒否反応を示すことがしばしばあります。
(大人でも、文字の細かい新聞・辞書・文学書などを読むより、文字の大きな書籍やコミックの方が、早く読めるし読みやすいと感じますね。)

学習に大きな課題のない児童は、教材を見た瞬間には嫌だなあと思ったとしても、すぐに気持ちを切り替えて、教材に向き合うことができます。
ところが、拒否反応が激しかったり、いつまでも取り組もうとしなかったりする児童は、学習全体のプロセスのどこかに苦手さや弱さを持っている可能性があります

どこに苦手さがあるのかは、学習に向き合う姿勢そのものだったり、集中力だったり、読む力・書く力だったり、学習分野に対する苦手意識だったりと、さまざまな可能性が考えられます。

今回は、「細かいものを見るのが苦手で拒否反応を示している」可能性について、代表的な学習課題をもとにしながら考えてみましょう。

定規の目盛り

たとえば、定規の目盛りです。
55レッスンでもしばしばご相談をいただく、苦手な子が多い学習分野です。
目盛りの学習には、難しいポイントが盛りだくさん!

目盛りの学習の難しさの例
・1目盛りの大きさが設定によって異なることの理解
・定規の操作(片手で押さえながら片手で線を引く、定規の0を指定箇所に合わせる等)
・定規の読み取り(1mm幅で連続する細かい線を見分ける力)
など

 

▲同じ幅の目盛りでも、設定によって1目盛りの大きさが異なる!

 

このように難しい目盛りの学習の中でも、細かいものを見る力が要求されるのは、

・線分の長さを測る
・指定された長さの線を引く
・指定された箇所の目盛りを読み取る

などの課題です。
長さを測る・線を引く課題は、両手で定規を上手に使う操作力も関係してくるので、見る力だけが問題とは言い切れませんが、目で見たものに手を合わせていく力が要求される点では、見る力も非常に重要です。

 

▲指定された箇所の目盛りを読み取る課題の例。
細かい目盛りを丁寧に読み取る力が求められる。

 

時計の針

こちらも難関、時計の学習です。
定規や目盛りの学習同様、ご相談が多い課題の上位にいつも入ってくる課題です。

時計の学習の難しさの例
・時間の概念そのものの理解
・時間と時刻の違いの理解
・アナログ時計の仕組みの理解
・アナログ時計の針の読み取り
など

 

見る力が関係するのは、アナログ時計の針の読み取りです。
針の先端が数字や目盛りから離れていてどこを指しているかわかりにくかったり、時計ごとに盤面のデザインが異なったりすることも、読み取りを一層難しくする理由の一つです。

▲針の先がどこを指しているかわかりにくい時計の例

 

対応の工夫の例

子供たちにはできるだけ楽しく学習に取り組んでもらいたいものですよね。
このような学習課題に対して、少しでも苦手意識を和らげ、取り組みやすくするための工夫をご紹介します。

逆に言うと、以下にご紹介するような働きかけによって学習への取り組みがスムーズになる場合は、そのお子さんは細かいものを見る力に苦手さを持っている可能性が高いということです。
学習以外の場面でも、見る力に意識を向けた支援を心がけてみると良いかもしれません。

 

拡大する

細かいものが見えないならば、単純に大きくしてみるのが一つの手です。

・プリント教材は拡大コピーする
・方眼紙で「10倍定規」を作る(方眼紙の1cmを1mm分とした定規。10mmで1cmになる、等の目盛りの構造を理解するための学習に向く)
・時計の盤面を拡大鏡で見る

などが考えられます。

▲大きいと見やすい

 

印刷を鮮明に

粗い印刷は見え方がぼやけます。
鮮明な印刷に変更してみましょう。

特に、「わら半紙」を用いたプリント教材は、見る力に弱さを持つ児童に対してはあまりお勧めできません
わら半紙の地の色や粗い紙面など、すべてが「見えにくさ」につながります。
指導者が自分で問題を用意する場合は、目の詰まった厚手の良い紙を使い、「コピー(複製)」ではなく「プリント(印刷・出力)」すると、より見えやすくなります。

▲近頃はわら半紙を使用する学校が減ってきたようですが、まだまだ頻繁に使用するという学校もあるようです。
個人的にはわら半紙のレトロな質感が大好きなのですが、見づらさの他にも消しゴムを強くかけると紙が破れやすい等、使いにくい側面は確かにあり、バランスをとって使用できると良いと感じています。

情報を隠す

細かいものを見る力に苦手さを持つお子さんは、目に入る情報の取捨選択も苦手なことがしばしばあります。
1枚のプリントにたくさんの問題が載っている場合は、これから取り組む問題以外を隠してみましょう
プリントの下半分を折り上げて隠す、別の紙を重ねて隠す、問題ごとに切り分けて1問分ずつ提示する、などの方法が考えられます。

ただでさえ苦手な問題がズラリと並んでいるのを見るのは誰でもウンザリですが、1問ずつなら意外なほど取り組みやすくなるものです。

筆者necoもこんな経験が

小学校2年生の男児の例。

アナログ時計の読み取りの課題で、プリントに10個の時計のイラストが描かれていた(しかもわら半紙に粗い印刷、大人でも見づらい)。
男児はプリントを見た途端に顔をゆがめ、「嫌だ!やりたくない!」と、プリントから目をそらして叫び出してしまった。

筆者は咄嗟に白いタオルでプリントを覆い、時計が1つだけ見えるようにした。
「大丈夫だよ。こうやって一つずつやればいいんだよ。ゆっくりやっていこう。」
筆者の声かけでプリントに目を戻した児童は、途端に落ち着きを取り戻し、プリントに取り組み始めた。

1問解けるごとにタオルを動かして違う時計を出現させるが、最初は筆者が行っていたその作業を、途中から男児が自分で行うようになった。

男児はプリントを最後まで解き切り、「(問題が多い時は)こうやればいいんだね。」と穏やかにタオルを筆者に返してくれた。

▲この時は、無地の白いもの(刺激になるような情報が含まれないもの)が手近にタオルしかなかったのですが、タオルよりも紙で隠した方が学習はスムーズだと思います。

 

また、出題内容と関係のない情報(飾りとしてのイラスト、指導者向けの注釈、配点情報など)を隠すのも有効です。

▲飾りイラスト(この例ではカブトムシ)は楽しさの演出につながるが、学習の妨げになる場合も。

具体物を併用する

同じ定規の目盛りでも、紙に印刷されたものと、実際の定規のそれとでは、見え方が全く違います。
基本的には、平面よりも立体の方が扱いやすく見やすいものです。
紙からいったん目を離して、実際の定規や時計などを手で触りながら考えてみると、スムーズに理解が進むことがあります。

▲紙の課題からいったん離れて、手で考えてみる

細かいものを見る課題が苦手な児童についてまとめ

学習に向き合う時のたくさんのプロセスのうち、今回は「見る」、特に「細かいものを見る」という部分に着目して、具体的な学習課題や対応の工夫をご紹介しました。

児童が学習への苦手意識を表現する時、その子が学習のどの部分に苦手さを感じているのかは、はたから見ているだけではなかなかわかりにくいものです。
さまざまな角度から働きかけて、それに対する児童の反応を見ながら、苦手さの原因や効果的な支援を探っていくのが、最善の方法だろうと思っています。
あなたの働きかけの引き出しの一つとして、記事がご参考になれば幸いです。

こちらは、自閉症・発達障害の療育 四谷学院55レッスンのブログです。
55レッスンは、自閉症・発達障害のお子さんがご家庭で親御さんとご一緒に学べる療育の通信講座です。
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