【発達支援を学ぶ】ABA(応用行動分析)とは?①

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こんにちは、55レッスンの生田です。

発達支援についていろいろと調べている中で、ABA(エービーエー)という言葉を聞いたことはありますか?
なんとなく聞いたことはあるけれど、よく分かっていない……という方も多いかもしれませんね。

一言で言い表すなら、ABAは、お子さんの望ましい行動を増やし、不適切な行動を減らすための支援法です。

この記事では、ABAについて、その歴史や具体例を交えながら、なるべくていねいに、分かりやすく説明をしています。

動画はこちらをどうぞ!

ABAとは?

ABAは、応用行動分析(Applied Behavior Analysis)の頭文字をとった略称です。

「応用行動分析……なんだか難しそう」
と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここでは、ABAを身近に感じられるエピソードを1つご紹介したいと思います。

ある日のこと、一人のおばあさんがバスに乗車してきたときの話です。おばあさんは杖をついていましたが、その場にいた誰も席を譲ろうとしませんでした。

そこで、この光景を見ていたバスの運転手は、一言「どなたか席を譲っていただけませんか」とアナウンスをしました。

するとその瞬間、近くにいた乗客が一斉に席を立ち上がろうとし、おばあさんは無事、そのうちの一人に席を譲ってもらうことができました。

それからというもの、バスの運転手は、座席が必要そうな人がいれば、必ずアナウンスを流すようになりました。

みなさんは、電車やバスで誰かに席を譲ったことはありますか?

時と場合によっては声をかけられるんだけどな……

なんて人も多いのではないでしょうか。

私自身、スマートに「どうぞ」と声をかけられたこともあれば、「断られたらどうしよう」と躊躇して動けなかったこともあります。

みんな、決して「意地悪な人」だから席を譲らないわけではないんですよね。

今回のエピソードのように、ほんのちょっとしたことがきっかけで、席を譲ることのできる人はたくさんいるはずです。

環境が行動に影響を与える

ABAは、人の行動の原因を「個人」ではなく、「環境と人との相互作用」としてとらえています。

先ほどのエピソードで言えば、

「車内が静かで声をかけづらかった」
「おばあさんの席から遠かった」

という風に、その人を取り巻く状況から原因を考えようとします。

バスの運転手さんの一言は、こうした乗客の人たちがおばあさんに声をかけやすくなるような環境をつくったと言えるでしょう。

このように、ABAは「心」ではなく「行動」を変えるためにはどうすればいいのか、という視点で解決の糸口を見つけだします。

ABA療育の歴史と効果

「なんでうちの子はこんな行動をとるんだろう?」
発達が気がかりなお子さんを育てる保護者の方なら、一度は考えたことがある疑問かもしれません。

実際に、「人はなぜそのように行動するのか」という問いを解明するために、あらゆる分野から研究が進められてきました。
その結果、自閉症をはじめとした発達障害のさまざまな特性も明らかになってきたと言えます。

そうした中で、「じゃあ、どう支援すればいいの?」「どうしたら問題行動を減らせるの?」という支援方法についても注目されるようになりました。

そこで、新たな風として台頭したのが行動主義とよばれる人たちの存在です。
行動主義の歴史については割愛しますが、当時、「意識」ではなく「行動」を研究しようとするのは画期的な試みだったと言えます。

ABAの祖「B.F.スキナー」

せっかくですから、ABAの祖であるB.F.スキナーについても紹介します。
「スキナー箱」という言葉を聞いたことのある人もいるのではないでしょうか?

スキナーは、オペラント条件づけとよばれる学習の理論において、行動と結果の関係性はコントロールできると考えました。

オペラント条件づけとは、生体にとって快、もしくは不快な刺激を与えたり取り去ったりすることで、適切な行動を増やし、不適切な行動を減らそうとする手続きのことです。

ABAも、オペラント条件づけの原理や方法を現実社会に応用した学問といえます。
かくしてABAは発達支援にとどまらず、教育や福祉、医療など、各方面においても取り入れられるようになりました。

ABAで望ましい行動を増やす具体例

では、いよいよABAを用いた支援についてご紹介していきます。
ABAでは、困った行動が起きる前後の行動や状況を分析することで、一人ひとりに応じた解決策を導き出します。
この手法は、ABC分析とよばれ、先行事象(Antecedent)、行動(Behavioe)、結果(Consequence)の頭文字がとられています。

実際にABC分析を用いた支援について、事例をあげながら説明していきます。

Yくんは特別支援級に通っている小学1年生の男の子。ADHDの診断があります。
Yくんは算数の課題中、15分以上座っていることができず、いつも課題をやめて歌を歌い出します。
先生はそのたびに課題に集中するように促しますが、Yくんの行動は一向に改善されません。

ABC分析をする上では、まず目に見えるものを観察することで変えられるものは何かを明らかにします。

この事例における「課題中に歌を歌う」という状況について、ABCフレームを使って考えてみましょう。

ABCフレームで考える

Aは、先行事象(Antecedent)
Bは、行動(Behavioe)
Cは、結果(Consequence) です。

Y君の問題行動は、このように整理できます。

(A)課題を提示される→ (B)歌を歌う→ (C)先生に注意される

A「課題の提示」が、B「歌を歌う」という行動につながっていることが分かりやすくなりましたね。
さらに、先生に注意されることで注目を浴び、その結果が「歌を歌う」という行動を強化していることが分かります。

このように、ABCフレームの枠組みで整理してみると、困った行動の原因が明確になります。

先行事象(A)を変えてみる

では、先行事象(A)を変えてみましょう。

(A)10分で完了する課題を提示する→ (B)課題に取り組む→ (C)先生にほめられる

集中できる時間内で取り組める課題をだすことで、Yくんは無理なく課題を達成することができます。
課題を達成したら、先生はYくんをうんとほめてあげることができますね。
すると、いつもは注意されることで注目を得ていたYくんですが、ほめられることでも注目を得られることを知り、「もっと課題をがんばろう」と思えるようになるかもしれません。

このように、望ましい行動を増やすような刺激を、ABAでは「強化子」とよびます。
ここでの強化子は「先生にほめられること」ですね。
そのほか、シールをあげる、スタンプを押す、ご家庭であればおやつをあげる……など、いわゆる「ごほうび」が強化子にあたります。

強化子の注意点

強化子を提示するタイミングも重要です。
大人が気まぐれにシールやおやつなどの強化子を与えてしまうと、子どもの行動もまた気まぐれになってしまうからです。

そうならないためにも、ABAに取り組む前の子どもの行動は、できる限り客観的に、正確に記述しておく必要があります。

この事例では、はじめの記録から「Yくんは15分以上は集中できない」ことが分かっています。
裏を返せば「15分間は集中できる」ということですから、強化子を提示する間隔はひとまず10分ずつと決めることができます。
10分の課題をクリアできたら15分、次は20分と、段階的に間隔を広げていくことで、やがてもとの強化子がなくなっても集中できるようになることが期待されます。

また、どの行動に対してほめられているのかを明確にするため、望ましい行動ができたときはすぐにほめてあげることも大切です。

ごほうびは「悪」?

もしかしたら……
「ごほうびでつるようなことをしていいの?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

でも、たとえば私たち大人も、仕事をするとき「お金」という報酬に少なからず動機づけられていませんか?
もちろん、「仕事そのもの」にやりがいを感じている方もたくさんいるかと思います。
「家庭のため」あるいは「趣味のため」と答える方もいらっしゃるかもしれませんね。

いずれにしても確かなのは、その人なりの強化子がその時々で存在しているということです。

子どもの場合も同じで、いつまでもシールやおやつをもらえることが子どもにとっての強化子になるわけではありません。
別の強化子に取って代わられるかもしれませんし、その行動自体に意味を見出せるようになるかもしれません。

ABAは「いま変えられるものを変えていく」という姿勢を徹底しますが、それは絶対的なものではなく、いつでも柔軟に変えていけるものなのです。

次回、「ABA(応用行動分析)とは?②」では、ABAで不適切な行動を減らす方法などをご紹介していきます。

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