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発達障害児の学習法にタブレット学習がオススメされる理由

  公開日:2017/07/01
最終更新日:2018/02/23

※この記事は約16分で読めます。

こんにちは。四谷学院の療育通信講座、ブログ担当のnecoです。

 

発達障害学習障害の子供たちにとって、電子機器を活用した学習はとても効果的です。
スマートフォンやタブレットで手軽に学習できるアプリもたくさんあり、学校やご家庭で電子機器を使った学習を行っておられることも多いでしょう。

電子機器を活用した教育は、教育現場では「ICT教育」とも呼ばれます。

特に学校では、小型のスマートフォンよりも、画面の大きなタブレットを活用した学習が中心です。
そこで今回は、発達障害の子供たちとタブレット学習についてまとめてみました。

発達障害の子どもたちが苦手なこと

そもそも、発達障害の子どもたちにとって、なぜタブレット学習が効果的なのでしょうか。
それを考えるために、まずは、鉛筆と紙を使う、昔ながらの学習方法の特徴について考えてみましょう。

鉛筆と紙を使う学習の難しさ

日本の学校教育はほとんどの場合「鉛筆と紙を使って読み書き計算すること」を中心として成り立っています。
これが発達障害の子供たちにとっての難しさの一つ。
ここでは、鉛筆と紙で読み書き計算を行う時に必要なスキルのうち、発達障害の子がつまずくことが多いものを考えてみましょう。

目と手の協応

文字や数字を書くには、目と手の協応(きょうおう)が高いレベルで必要になります。
発達障害の子供たちには、この協応動作が苦手な子が多いのです。

たとえば、「もぐらたたき」をイメージしてみましょう。
もぐらが出てきたことを目で捉えた瞬間に、その位置に手を持っていって素早く叩く、という遊びですね。
この「目で見て狙ったところに手を持っていき、思い通りに動かす」動作が、目と手の協応です。
協応動作では、目と手が同時に動くのではなく、目が運動をリードしています。
もぐらたたきをしていると、本当は右を叩きたかったのにうっかり手が左に行ってしまった、ということがありませんか。
「本当はこう動かしたかったのに間違える」ことがある、これが目と手の協応の難しさです。

何かを書くという作業は、目と手の協応動作の連続です。
目と手の協応に弱さがある子供たちは、最初はなぞり書きにも苦労することが少なくありません。
日本の小学校では、一年生でひらがなとカタカナに漢字80字、二年生で漢字160字・・・と次々に学習が進み、6年間で1000を越える数の漢字を学習することになっています。
が、なぞり書きすら難しい子供たちにとっては、わずか6年の間にこれだけの文字を書くということが相当の負担になります。

手の運動スキル

発達障害の子供たちは、手先が不器用なことがよくあります。
これも、「鉛筆を動かす」という作業にとっては大きなハードルになります。

文字や数字を書く動作を細かく分解すると、「利き手の小指側の側面を机にしっかりとつけて手を支え、指先だけで鉛筆を動かす」、という動きになります。
指先が不器用な場合、指先の練習だけでなく、その前段階である「手を支える」力も育ててあげる必要があります。
発達の階段を順番に上っていって、指先だけを細かく動かす力が育つまでは、いくら書き取り練習をしたところで文字は上達しません。
就学時点でここまで発達が進んでいないお子さんにとって、鉛筆を使う学習は、文字通り「できないことを無理にやる」作業になってしまいます。

見るものに素早く目を動かす(共同眼球運動)

発達障害の子供たちは、「見る力」に課題を抱えていることも多いものです。
共同眼球運動もその一つ。
この力は、

1.動くものを追いかけて視線を移動させる
2.ある一点から別の一点に視線をジャンプさせる

この2つに分けられます。
学習時に特に問題になるのは2番目の「視線のジャンプ」です。

視線のジャンプの何が難しいのか?
これは、「難しめの模写」にチャレンジしてみるとイメージできます。

たとえば、これ。

※画像は同志社大学四戸潤弥先生の「同志社大学インターネット・アラビア語講座」よりお借りしました。
引用元URL:http://www1.doshisha.ac.jp/~jshinohe/lesson1/lesson1_1.htm

こちらは、「こんにちは」を意味するアラビア語だそうです。
多くの方にとって、アラビア語はあまり親しみのない言語では?と思います。
その場合、この文字は、言語というよりも何かの図形のように見えるのではないでしょうか。
このような対象物を模写する時は、お手本を見ながら、「この線をこう曲げて、ここを回転させて・・・」などと考えながら書くことになりますね。
この時わたしたちの目は、お手本と書く紙とを交互に見ています。
つまり、お手本から一旦目を離しては手元を見て、またお手本に目を戻しているわけですが、発達障害の子供たちはこの「視線のジャンプ」が苦手。
お手本から一度目を離してしまうと、再びお手本を見た時に、さっきまでどこを見ていたかがわからなくなってしまうのです。

「黒板とノートを交互に見る」
「お手本と解答欄を交互に見る」

といったように、紙と鉛筆を使った一般的な学習方法では、視線のジャンプが頻繁に行われます。
これが発達障害の子供たちには大きなハードルになります。

目から入った情報の認識(視知覚)

何かを正しく書くためには、目で見たものを正しく認識する力が必要です。
たとえばさきほどのアラビア語。

一番左側に「く」のような曲がった線があって、その下に回転したヒゲが生えていて、「く」の上下にチョンチョンやマルがあって・・・

という感じで、線の曲がる方向や角度などをいちいち確認しないと正しく書けませんよね。
(※アラビア語は右側から書いていく文字なのですが、大多数の日本人は左側から書いていきたくなると思いますので、左端の形から触れています。)

線の配置を「見た通りに、正しく」認識する必要があるわけですが、この認識が苦手な発達障害学習障害の人は、線が重なって見えたり、線がくっついている箇所がボヤけて見えたり、といったように、正しく認識できないことがあります。
これでは当然ながら、書きたいものを正しく書くことはできません。

手の協応や運動スキルが未熟だから書けない、という他に、正しく認識できないから書けない、という可能性もあることを理解しましょう。

集中力

学習時にはどんな作業をするにも一定の集中力が必要ですが、発達障害の子供たちは、集中力にも弱さを持っていることがあります。
子供たちの集中力は、大人が一般的にイメージするような「集中」よりも、はるかに低い刺激で乱れてしまいます。

 

子供たちの集中が乱れる例
○「じっと見る」ことができずすぐに視線が逸れる
○情報の取捨選択が苦手なためどこを見れば良いかがわからない
○見続けることに疲れてしまう
○目や耳に入ったことに瞬間的に身体が反応してしまう
○一つのことに意識を向け続けられない
○できないとすぐに諦めてしまう

 
学習には「見る」力、「見ることを維持する」力、「目的を達成するまで意識を向け続ける」力、などが必要で、集中力が足りなければ、このいずれも大変難しい課題となります。

ワーキングメモリ

ワーキングメモリとは、物事を頭の中で処理する時に使う力で、一時的に情報を覚えておくために使われますが、必要な作業が終わればその情報は忘れてしまいます。

たとえば、

43 × 8
を暗算する場合を考えてみましょう。
一般的な方法では、まずは8と3をかけて、24という答えを出し、「2」を10の位に繰り上げますね。
そこで一旦8×3を離れて、次は8×4を計算します。
32という答えを出したら、最初に繰り上げておいた「2」を10の位に足して、「344」という答えを出すわけです。

計算が終わる頃には、2を繰り上げたことは忘れていると思います。
このように、脳の中で一時的に情報を処理する場面で使われるのが「ワーキングメモリ」です。

 

わたしたちは生活のあらゆる場面で極めて頻繁にワーキングメモリを使っています。

「ノートをとっている最中に先生から指示があり、ちょっとノートを中断して、赤鉛筆を取って、教科書に線を引く」

学習時によくあるこんな場面にも、ワーキングメモリがフル回転しています。
細かく分解してみると、

ノートをとっている最中に
先生の指示を頭に入れる
鉛筆を置く
赤鉛筆を取る
教科書で該当箇所を見つける
線を引く
また鉛筆を取って
さっきまで何を書いていたかを思い出し
ノートテイクを続ける

ワーキングメモリに弱さがある子にとっては、この作業の切り替わりごとに、次に何をするのだったか、最終的な目標は何だったかを忘れてしまう、というイメージです。
一事が万事、こういう感じで、指示内容や作業内容がポロポロとこぼれ落ちてしまうのでは、学習に大きな支障が出ることは簡単に想像できるでしょう。

発達障害の子供にはタブレット学習が効果的

以上、発達障害の子供たちが、紙と鉛筆を使った学習に難しさを感じる代表的な理由を述べてきました。
それでは、これらの難しさを解消するためになぜタブレットが効果的なのでしょうか。

タブレットは「書かなくていい」

紙と鉛筆の学習では、「線を引いて文字や数字を書く」という作業が必ずついて回りますが、タブレット学習はそうではありません。
たとえばボタンをタップして文字や数字を選ぶ、音声で読み上げるなど、直接自分の手で何かを書く以外の方法で学習できるシステムがたくさんあります。

目と手の協応動作が苦手、手先が不器用、といった特徴を持つお子さんであっても、画面上の大きなボタンをタップすることは比較的簡単です。
鉛筆では書きづらいお子さんも、指で書くと(道具を通さない分)比較的スムーズに書けることもあります。
画面に指で触れて書けるのもタブレット学習にしかない良さです。
また、見たものを正しく認知できないお子さんも、音声で文字を確認したり解答を入力したりすることで、よりスムーズに学習を進めることができます。

「人」にはない機械の良さ

タブレット学習には、人が指導する時には決して真似できない、機械ならではの良さがあります。

○即時に反応が返ってくる

たとえば書き順を間違えたりなぞり線をはみ出したりすると音や色で教えてくれるアプリがあります。
人が指導する時にはどうしてもこれほど瞬間的な指導はできず、タイムラグが生まれます。
集中を維持しづらい、すぐに気が散る、ワーキングメモリに弱さがある、などのお子さんにとっては、このわずかなタイムラグの有無が学習のスムーズさを大きく左右します。

○合否判定が早い

合格した瞬間に「ピンポン」と花丸が、間違えた瞬間に「ブブー」とバツが出る、といったように、タブレット学習は合否判定も即時に行えます。
すぐに結果がわかる楽しさが子供のやる気を引き出します。
大人に丸付けをしてもらうのを待つ必要もなく、ゲーム感覚で楽しくどんどん進めていくことができます。

○自分のペースで学習できる

大人と一緒に学習していると、大人のペースで学習を進めることになりますが、タブレットは一度やり方を覚えてしまえば、自分でどんどん先に進めていくことができます。
自律的な学習への取り組みが子供たちの主体性を引き出し、学ぶ喜び・楽しさを味わわせてくれます。

○教材の手配やアプリの切り替えがスムーズ

紙媒体の教材は何かとかさばり、準備や片付けにも手間がかかりますが、タブレット学習では全て画面一つで済みます。
タブレットにアプリをインストールしておけば、複数の子供たちが同時に学習を行ったり、それぞれが別のアプリを使用したり、国語から算数に切り替えたりといった流れもスムーズです。

 

タブレットは「見る場」が明確

タブレット学習では、基本的に子供たちが見るものはタブレットの画面のみです。
黒板とノートを交互に見るような視線のジャンプが不要なため、集中力が乱れる機会を減らせます。
また、机全体に教材が広がっているとどこを見れば良いか迷ってしまう子供たちも、タブレット学習は画面のみを見ていれば良いため、わかりやすい学習場面を作ることができます。
タブレット一つで学習が完結できるスタイルはワーキングメモリにも負荷が少なく、(次に何をするんだっけ)(この字はどう書くんだっけ)などと余計なことを考えずに、本来の学習内容を理解することに十分な力を割くことができます。

 

表示形式を変えられる

電子データは、フォント・色・大きさなどの表示形式を自由に変更できます。
文字の拡大・縮小も簡単です。
視知覚の弱さや見えにくさを持っている子供たちも、自分にとって最も見やすい形を選択することができます。

 

アプリを選ぶコツ

タブレット学習を行う際に最も大切なのは、

○その子がどんな強みを持っているか
○その子がどんな苦手さを持っているか
○その子にどんな力を身に付けてもらいたいか

これをよく考えて、お子さんの状態像や学習の目的合致した学習課題や学習アプリを選ぶことです。

 

オススメアプリ筆談パット

今回は、necoが実際に使っているアプリの中から、文字を練習するためのツールとして 「筆談パット」 をご紹介します。
無料アプリですから安心して試してみてくださいね。
この使い勝手の良さで無料というのは、なかなかのものだと思っています。
ただこのアプリ、アンドロイド非対応なのです。アンドロイドユーザーの方はすみませんm(_ _)m


※iOS 8.2 以降、iPhone、iPad、iPod touchに対応
※Android非対応です

このアプリは、画面を2分割して、向き合った状態で筆談ができます。
自分の画面に書いた文字が、同時に相手の画面にも表示されるので、いちいち書いたものの向きを変えなくてもお互いに筆談ができます。

「第2回だれもが使えるウェブコンクール」のアクセシブルデザイン賞を受賞しています。


※画像は「だれもが使えるウェブコンクール」のキャプチャです。

ちなみに、こちらの画像では「筆談パッ」と表示されていますが、アプリ名は「筆談パッ」が正解です。
「筆談パッド」ではアプリの審査に通らなかったのですって。なぜでしょうね(^ ^)

 

おしゃべりの声音が違うように、筆談の文字色も変えられる

文字の色、線の太さ、背景の色は変更できます。
自分の文字色と相手の文字色をそれぞれ変えられるので、

自分(2分割画面の手前側)が書いた文字=青色
相手(2分割画面の奥側)が書いた文字=緑色

のように、色で区別しながらおしゃべりすることができます。


※色は一例です。自分の色をピンクに、相手の色をオレンジに、などと変更できます。
 

聴覚や発話に困難がある方向けの機能

主に耳の聞こえや話し方に困難がある方のサポートツールとして使われる想定のアプリなので、相手の注意を引くための「呼び鈴機能」や、画面上にデフォルトで表示される文章「説明字幕」の内容も留意されています。

呼び鈴機能

音の種類は「猫」「ドアベル」「自由に設定した言葉をしゃべる」など、12種類から選択できます。
「呼び鈴を使用しない」も選択できます。
文字の練習に使用する際には、集中が途切れないよう、誤ってタップしても音が鳴らない「呼び鈴を使用しない」 設定にすると良いかと思います。

説明字幕

デフォルトの設定は「ここに指で文字を書いて下さい」になっています。
文字の練習として活用する場合は、この部分はデフォルト設定のままで問題ありません。
聞こえや話し言葉のサポートとして活用する場合は、「筆談でお願いします」など、ご本人が使いやすい表現に変更すると良いでしょう。

 

文字の練習

文字の練習のために筆談パットを使う場合は、ここまでご説明した機能は、ほとんど使う必要はありません。
設定は全てデフォルトのままで、ただアプリを起動して、文字を書くだけでOKです。

necoの場合、息子が

「『ね』ってどう書くんだっけ?」

などと尋ねてきた時に、パッとスマホを持ってきて、筆談パットで書いてみせます。
向き合った状態で文字を見せられるので、私は書きやすく息子は見やすいです。
大人が正しい書き順通りに書く「動き」そのものも再現されるため、「ね」という静止した文字を見せるよりも、頭に入りやすいようです。
正しい書き順を伝える役にも立っています。

 

ここでは文字の学習事例をご紹介しましたが、

○相手が話したことを書き取って表示する
○話し合いの内容をまとめて共有する
○計算しながら思考のプロセスを提示する

といった場面でも活用できるでしょう。
iPhone、iPadユーザーの方は、よろしければどうぞ試してみてください。
無料なので、とりあえずダウンロードしてみて、いろいろいじってみてくださいね!

 

その子に合った学習法を見つけよう

筆談パットはとても良いアプリですが、このアプリを十分に活用できるお子さんは、たとえば以下のような状況の方が考えられるでしょう。
逆に言うと、それ以外の状況のお子さんには「オススメアプリ」にはなり得ない可能性もあります。

○学習に前向きに取り組める
⇒ゲームのような楽しさがあるわけではない。学習意欲が弱い子には仕掛けが足りない可能性も。

○動きを目で追える
⇒見る力や集中力に課題がある子には、線が動くことが逆に集中の妨げになる場合もある。

○視知覚に問題がない
⇒大人の手書き文字を示すことになるため、文字の形が毎回違う。見る力や見たものを解釈する力に課題がある子には、機械の文字(=毎回一定の形になる)を見た方が学習効果が高い場合も。

 

55レッスンでも、「オススメの学習アプリはないだろうか?」とよくお問い合わせいただくのですが、どんなお子さんがどんな学習をしたいのかによって、「オススメ」は全く変わってきます。
子供たちの発達上のつまずきは十人十色です。
誰にでも合う万能の学習アプリは存在しません。
色々なアプリを実際に使ってみながら、目的に合った機能を探していくしかないでしょう。
今回オススメした筆談パットも、記事を参考にしていただきながら、「この機能はこの子のこんな状況に使えそうだな」と想像しながら使ってみていただければと思います。

 

タブレット学習は、紙と鉛筆を使った学習が苦手なお子さんにも、苦手なスキルをサポートしながら、その子が本来持っている知的能力を最大限に高める機会を与えてくれます。

ところで、タブレット学習は大変効果的な学習方法ですが、これだけで全てが完結できるわけではありません。
どんなに苦手さがあったとしても、社会で自立して生きていくためには、ある程度の筆記力や計算力も必要になってきます。
練習すれば上達が見込めるスキルを、苦手だからといって放置しておいて良いものでもありません。

タブレット学習は、無数にある学びの方法の一つに過ぎません。
タブレット学習を通して学びの楽しさ・知る喜びを十分に味わうことで、子供たちは学習への前向きな姿勢を育み、自分の得意・不得意を理解し、苦手な課題にも積極的にチャレンジしようとする意欲を持つことができます。

タブレット学習が本当の意味で発達障害の子供たちに与えてくれるのは学びのチャンスです。

タブレットで学習すれば全てOKと考えず、これをきっかけにその子の学びの世界を広げていくという視点が指導者には不可欠です。

本当の意味でその子の人生を支える学力・スキル・学びとは何か?

を常に忘れずに考え続け、大人も子供も新しい学びにチャレンジし続けていきたいものですね。

 

それでは、また!

 

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