自閉症スペクトラムのお子さんの中には、いつも無表情で、一見、なにを考えているのか分からないように見える子がいます。
今回の記事では、その理由を探りながら、感情表現が苦手なお子さんへの支援法について考えていきたいと思います。
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目次
無表情なのは何も感じていないから?
私たちは人とコミュニケーションをとるとき、自分の気持ちを態度に出したり、反対に、相手の表情や声色からその人の気持ちを察したりすることをごく自然と行っています。
一方で、自閉症スペクトラムのお子さんの多くは、そうしたコミュニケーションを苦手としやすく、定型発達のお子さんと比べて感情の起伏が見えづらいことがあります。
そのため、なかには「何も感じていないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは大きな誤解です。
お子さんたちの様子を間近で観察してみると、そのことがよく分かるかと思います。
たとえば、傍からみると全く楽しそうには見えなかったお子さんが、後になって「あのときは楽しかった」とわざわざ報告してくれることがあります。
感動した出来事を、抑揚をつけずに淡々と繰り返し聞かせてくれるお子さんもいます。
いずれもその表現の仕方は独特に思えるかもしれませんが、その子なりに心を動かされている様子が伝わってきますよね。
感情表現が少ない、あるいは分かりづらいからと言って、感情そのものが乏しいことにはなりません。
どの子にも、その心の中には豊かな世界が広がっているのです。
感情表現を身につけるには
いまお話したように、自分の心の動きをどう表現するかは人によって様々です。
これが正解、というものはありません。
一方で、自分の感じていることを人に伝わりやすい形で表現できるようになることは、スムーズな対人関係を築きやすくなるのもまた事実です。
そこで、ここからは『相手に伝わる感情表現を身につけるための2つの方法』についてご紹介します。数ある支援法のうちの1つとして、ぜひ参考にしてみてくださね。
①気持ちを言語化する
何か心動かされるような出来事があったとしても、その感情が何なのか、自分自身で分からなければ態度に表すことはできません。
そのため、自分の気持ちを自覚すること、すなわち『気持ちを言語化できるようになること』が、豊かな感情表現を獲得するための第一歩と言えるえしょう。
さて、自分の気持ちを言語化するためには、まずは感情を表すことばの理解を深める必要があります。
と言っても、「嬉しい」や「悲しい」といったことばは目に見えるものではないので、お子さんに伝わるように説明するのは難しいですよね。
そこで『体験から学ぶ』ということが重要になってきます。
たとえば、つみきで遊んでいるときに
「どんどん積みあがって、楽しいね」
ゲームに負けたときに
「負けちゃってくやしいね」
プレゼントをもらったときに
「好きなおもちゃだね!嬉しいね」
など、お子さんの身の回りで起きた出来事と、その時に生じるであろう気持ちのことばをセットにして、積極的に声をかけてあげられるといいでしょう。
体験とことばを結びつけることで「こういうのを楽しいっていうんだ」「これがくやしいって気持ちなんだな」と、感覚的に理解してもらいやすくなります。
同時に、折に触れてお子さんに“今の気持ち”を尋ねてみることも大切です。「楽しい」などの返答があったら、「どうして楽しいって思ったのかな?」とその理由を訊いてみましょう。
理由に応じて「そっか、それはワクワクした体験だったね」という風に、「楽しい」と関連する別のことばで返してあげられると、感情表現の幅がまた一段と広がっていくかと思います。
人の心というのは、本来、捉えどころのない不確かなものです。
そうした複雑な心の動きを言語化する能力が身につくと、自分の気持ちを表現できるようになるだけでなく、相手の気持ちを推し量れるようにもなってきますから、ぜひ、日々のやり取りの中でこうした声かけを意識していただけるとよいでしょう。
②非言語コミュニケーションを身につける
目は口ほどにものをいう、という諺にもあるとおり、コミュニケーションスキルはことばによるものだけではありません。
表情や身振り手振り、声のトーンといった『非言語コミュニケーション』とよばれるものも非常に重要です。
しかし、自閉症スペクトラムのお子さんの中には、人への興味関心が薄く、呼んでも反応がなかったり、視線が合いにくかったりして、相手の様子を窺うことを苦手とする子が少なくありません。
なので、お子さんに話しかけるときは、同じ視線の高さまでかがむ、肩をトントンと叩くなどして、まずはこちらに注目を向けるところから始めましょう。
『話を聞くときは人の顔を見る』という習慣が身についてくると、その表情の変化にも気が付きやすくなるかと思います。
もちろん、相手の顔を眺めているだけではその人の心情を察することはできませんから、状況に応じた表情やジェスチャーがあることを大人は教えていく必要があります。
たとえば、感情を表す絵カードを使って、「楽しい、の顔はどれかな?」「これはどんな気持ちの顔?」「しずかに、を表すジェスチャーは?」という風に、クイズを出してみるのもおススメです。
ほかにも、お子さんが好きな絵本を用いて「この子はいまどんな顔をしてる?」「それはどうしてかな?」と、登場人物の気持ちを推測してもらってもいいですね。
いずれも、お子さんの楽しめる形で取り入れられるとよいでしょう。
そして、日々の生活の中で、お子さん自身に場面に合った適切な表情やジェスチャーを促すことも大切です。
「わかる」と「できる」は別ものですから、はじめのうちはうまくいかないかもしれません。
まずは鏡の前で一緒に笑顔をつくってみる、口角を少しだけ上げてみるなど、スモールステップで取り組んでいきましょう。
ただし、自然な笑顔をつくったり、明るい声で挨拶をしたり、といったことは、繰り返すうちにできるようになる子もいれば、それ自体を苦痛に感じる子もいます。
そうした子には、「嬉しいな、と思ったら、嬉しいって伝えたらいいよ」「いやなことをされたら、やめて、と言うんだよ」という風に、ことばでの伝え方を積極的に教えた方が、良好な対人関係を築きやすいということもあるでしょう。
何事も、無理強いすると余計に人との関わりを遠ざける要因になりかねません。
コミュニケーションのとり方に唯一の正解はありませんから、大人は、その子に合った感情表現の仕方を見つけて教えてあげられるといいですね。
自分らしい感情表現を見つけるために
今回は、感情表現が苦手な子への支援の仕方についてお話ししてきました。
豊かな感情表現ができるようになることは、その子自身の人生の在り方を大きく変えます。そして、経験を積んでいく中で『自分らしい感情表現の仕方』というのは必ず見つかります。
大人は、焦らず、じっくりとその道のりを見守り、時にはサポートしてあげられるといいですね。
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このブログは、四谷学院「発達支援チーム」が書いています。
10年以上にわたり、発達障害のある子どもたちとご家庭を支援。さらに、支援者・理解者を増やしていくべく、発達障害児支援士・ライフスキルトレーナー資格など、人材育成にも尽力しています。
支援してきたご家庭は6,500以上。 発達障害児支援士は2,000人を超えました。ご家庭から支援施設まで、また初学者からベテランまで幅広く、支援に関わる方々のための教材作成や指導ノウハウをお伝えしています。
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